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あくまのかお
悪魔の顔
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1930(昭和5)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,677 字 · 29 页
網の目
石井馨之助を毒殺したのと、同じ人間の手だろうという点は、だれでも一致しましたが、土台石井馨之助を殺した手がわからないのですから手の付けようが無かったのです。
網の目
――あの短刀は、芦名兵三郎のものだ――
――未亡人の濤子は、芦名を使って関子を刺させたのだ――
斯う言った投書が、全く違った手跡で、二通も三通も警察へ舞い込みました。それを見るまでもなく、先年南フランスからイタリーあたりへ長い旅をした事もある芦名兵三郎は、其日の内に警察へ呼出されて、峻烈な訊問を受けました。
「この短刀はお前のか」
「そうです、私のに相違ありません」
「どうして解る、同じような短刀はいくらもあるだろうと思うが――」
「これはコルシカの名物屋で買ったんですから、世間には同じ短刀は沢山あるわけですが、柄の象牙に、私の名前の頭文字を彫ったのはこれしかありません」
血染の短刀を前にして、芦名兵三郎は平気でこんな事を言って居ります。
「では、何うしてあんな場所にあったんだ」
「それはわかりません、私は此短刀を一ヶ月も前に盗まれたんです」
「それは本当か、誰かその事を証明する者があるか」
「残念乍ら、ありません、つまらないものですから届出もせず、人にも言わなかったのです」