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あくまのかお

悪魔の顔

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1930(昭和5)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,677 字 · 29 页

青空文庫

悪魔の姿

「君は?」

「僕も一度帰る、花房一郎が此家に居ては、魚は網にかからない」

花房一郎は斯う言い捨てて、後ろも振り向かずに歩み去りました。

生垣の穴を一体幾つ探す気でしょう。

悪魔の姿

その晩、二時頃、奥から恐ろしい物音が聞えました。爺やの室で片唾を呑んで居た千種は、真っ直ぐに廊下へ飛出して、二つずつ階段を飛上ると、

「此処だ此処だ千種君」

花房一郎の声が、思いもよらぬ美保子の室から聞えます。扉を押して、懐中電灯の光りと一緒に飛込むと、花房一郎は何やら床の上へ押え付けて、

「サア、これが犯人だ、悪魔の顔を見給え」

と懐中電灯の光の中へ、組み伏せた殺人鬼の顔をさらしました。

「アッ、田――」

花房の膝の下に敷かれて、醜怪な怒と失望に燃えて居るのは、あの、臆病で内気で病身な、田庄平の顔に相違ありませんが、日頃の憂鬱な優し気な表情などは何処にもありません。本当に、それは花房一郎が言う通り悪魔の顔です。

「とうとう網にかかったよ、恐ろしい魚だ」

未亡人も、爺やも、美保子も、事情を察して飛んで来たものと見えて、廊下に固まって、顫え乍ら、部屋の中を覗いて居ります。

「もう大丈夫」