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かなしいごかい

悲しい誤解

豊島 与志雄

「女性改造」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,139 字 · 23 页

青空文庫

小さな食卓の上に、銚子と盃があり、海苔巻きの鮨を盛った中皿が一つあった。酒の方は分るが、鮨はどうしたのであろう。私が註文したのだろうか。黒く光ってる海苔の肌が、たまらなく淋しく、私は盃を取り上げた。

突然、びくっとしたほど突然、さよ子が音もなくはいって来た。番茶の土瓶を持って来たのだ。

「お酒はもう毒よ。お鮨をあがるといいわ。」

茶碗に、湯気のたつ熱い茶をついでくれた。悲しさが突発して、私は身内が震えた。肥った彼女ににじり寄って、その膝に顔を伏せ、更に寄り縋って、その胸に顔を埋めた。静かに坐ってる彼女の肉体が、ぴくりぴくりと動き、それから温く私を包みこんでくれた。

「僕は悲しいんだよ。泣きたいんだよ。」

言葉と一緒に、ほんとに涙が出て来た。

「君はだれだい。あ、さよちゃんか。」

私はまた泣いた。

「ね、分ってくれるね。僕は淋しく悲しいんだ。人間てものが、悲しいんだ。胸に何か、愛情みたいなものが、いっぱいたまってきて、それを誰かに訴えたいんだ。」

「いや、大きな声をなすっちゃいやよ。」

「うん、分ってる、分ってる。」

私は彼女になお縋りついてゆく。

「誰かに訴えたいんだ。