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かなしいごかい
悲しい誤解
豊島 与志雄
「女性改造」1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,139 字 · 23 页
やはり、彼女の体温が誰のものでもなかったと同じく、彼女は私にとって誰でもなかったのであろう。誰でもない、それはいったい何を意味するのか。私がキス一つ求めなかったのは、何を意味するのか。彼女は私にとって、ただ人間だったに過ぎない。
それだからと言って、彼女にとっては、私はただ人間だけではなかった。田代敏夫という一個の男だったのだ。
私は立ち上った。
「大丈夫だよ。心配しないでもいい。」
そして彼女の手を握って打ち振ってやったが、その手もすぐに離した。
ばかな、なにが大丈夫なのか。私の気持ち、彼女に話したって到底理解されまい。
わーっと叫びたいのを押えて、大きく息を吐いた。何度も息を吐いた。自分ながら酒くさい。鞄ごと両手を大きく打ち振り、大股に歩き廻った。
フォームに電車が来た。発車間際に私は飛び乗って、窓硝子越しに、さよ子を見た。そこに佇んでこちらを見上げてる丸い顔は、まるで表情を忘れたもののようで、ただ仄白く浮き出していた。
電車はわりにすいていた。私は腰掛けに身を落して、両腕を組み顔を伏せた。
誤解、ということで私は責を遁れようとは思わない。然し、誤解とすれば、なんと悲しい誤解だろう。