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ひがんについて

悲願に就て

坂口 安吾

――「文芸」の作品批評に関聯して――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,329 字 · 17 页

青空文庫

前作の首をくくる時よりは彼の悲願がずっと深められた不気味なものに進んでいるのだ。私は時々、あいつもう自殺をするんじゃないかと思ってしまう。自殺をするならそれはそれで仕方がない、とにかく真向から漠然たる悲願に組みついてあくまで執拗に突きつめている彼の態度には貴いものがある。併しながら繰返して私は主張したいが、悲願そのものに私はすぐれた文学を期待することができないのだ。それが突きつめた極点で生きることに向った時、そこから新らしい倫理が発足するのだと思う。

ところが川端氏の「からさ」に対比するわけではないが、片山がその孤独感をおしつめてゆく態度が凡そ完全に「あまい」のである。川端氏がわれわれ好みの見栄と考えて三円の料金であっさり女を買ってしまうところを、片山はそういう「からさ」には一向てれずに辻本には足賃をやりその家には茶代を払い殊に女には簪ぐらい買ってやろうという気持まで起さないとは限らない。だが、そういう甘い気持によってその悲願をまぎらしたり、又その悲願がそういうことで慰むのかといえば、凡そ完全にそういうことはない。彼の場合その甘さは深まりゆく悲しさには全く無関係なのであって、そういう甘さは全く彼には傍系的なものであり、いわば彼は彼のまことの悲しさとは別の場所に茶番をしているのであった。