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おもいで

想い出

佐藤 垢石

「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,792 字 · 8 页

青空文庫

店主に頼んで、友釣りの釣り道具一切をこしらえて貰ったのである。

鼻環は、木綿針を長さ八分ほどに切り落とし、真んなかを麻糸で括った撞木式。テグスの鈎素へ、鈎を麻で結びつけた鈎付け。鈎は袖型であったが、鮎掛け鈎としてはモドリのついた珍しいものであった。いまから考えると、まことに旧式な仕掛けの出来であった。

私は、喜んでその道具を蟇口へ入れ、きのう『猫』で買った鮒竿をかついで、足どり軽く飯泉橋を酒匂川の東岸へ渡った。飯泉橋はいまの小田原行き電車の足柄駅から遠くはないが、その当時と、この頃では酒匂川の様子が、まるで変わっている。

道了大薩の奥から出てくる狩川と、酒匂川とは飯泉橋の上手で合流している。その橋の東の袂に、飯泉村を貫いて流れて出てくる清澄な小川があった。その小川が、酒匂川と狩川の合流点へ注ぐ角に木床工があって、深さ一尺五寸ばかりの巻き返しになっていた。そこに、大小無数の鮎が群れているのを発見して喜んだ。急いで、竿へ毛鈎の道具を結びつけ、抜き足して岸へ近づいた。そして、一尾の囮鮎を釣りあげようとして、熱心に鈎を上げ下げして、一時間も辛抱したが、鮎は鈎の方を見向きもしない。