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あいのために

愛の為めに

甲賀 三郎

「探偵文藝 第2巻第4号」奎運社、1926(大正15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,919 字 · 24 页

青空文庫

それに人目を忍んでいる私には警察が苦手なのだ。と云ってその中に赤ン坊が泣き出したらどうしよう。あのお母さんは半狂乱で私を探しているに違いない。私は、呉服店の前で待っているべきだ。だが、父が居るのをどうしよう。私は三年前父の前で、お世話にならなくても、一人前の人間になって見せますと放言したのだ。このみすぼらしい身装を、しかも他人の赤ン坊を抱いて、どうして曝す事が出来よう。

私は思案に余った末、一度宅へ帰る事にした。妻はきっと驚くだろう。けれども訳を話せば納得するに違いない。妻なら赤ン坊の世話も出来るし、泣き出せば近所のおかみさんが乳を呉れるだろう。赤ン坊を妻に預けて置いて私は直ぐ、呉服店に引き返えそう。今は三時だから呉服店の閉る五時までには充分本所まで往復する時間はある。その時分には父は帰っているだろうし、あの奥さんは自分の子供の事だ、余計に心配をかけるのは気の毒だが、きっと待っているだろう。そう決心して私は電車に乗った。

妻は私が赤ン坊を連れて帰ったのを見ると、丸い眼をはち切れるように瞶って吃驚した。

私が手短に事情を話すとまあと云って赤ン坊を受取った。