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あいのために

愛の為めに

甲賀 三郎

「探偵文藝 第2巻第4号」奎運社、1926(大正15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,919 字 · 24 页

青空文庫

そうして、

「なんて可愛い赤ちゃん」と云った。

誰だって、この赤ン坊を見たならばこう云わないで居られるものか。赤ン坊もやっぱり妻に抱かれる方が気持が好いのだろう。ニコニコと笑った。

妻は父に見つけられはしないかと、ひどく恐れたけれども、私は云い宥めて、すぐ呉服店に引返えした。

恐々内部へ這入ったが、父の姿はもう見えなかった。そうして何とした事だ、赤ン坊のお母さんの姿もどこにも見えないのだ。

私は呉服店が閉るまで、内部をうろつき廻った。閉っても未だ暫く外に立っていた。けれどもとうとう奥さんの姿は見えなかった。

重い足を引摺って暗い気持に浸りながら、再び私は宅へ帰った、赤ン坊はスヤスヤと寝て居た。留守中に一度激しく泣いたそうだけれども、二三軒先のおかみさんに乳を貰うと、そのまま寝ついたのだった。

私は妻と顔を見合せてホッと溜息をついた。

私達二人でさえ、もち扱っているのだ、こんな天使のような悪戯者が飛び込んで来て、どうすることが出来ると云うのだ。

二人はいろいろ相談した。

何と云っても、警察へ届けるのが一番だけれども、それは出来なかった。父は警察へ私の捜索を依頼しているに違いないから、第一父に見つけられる事が恐かったし(之は妻が特別に恐れた。