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われにそむく
我に叛く
宮本 百合子
「太陽」1921(大正10)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页
「…………」
ゆき子は、今更ながら母の真木に対する隔意を感じずにはいられなかった。彼女が自分の為を思い、仕事の纏まらないのを心から憂いていてくれることは疑もないのだ。けれども、その気持を言葉に出して云おうとすると、或は、総括した考えとしての筋をたてるとなると、彼女は、先ず真木という名に当って行かずにはいられないのだ。ゆき子は、母の衷心は明に察せられた。然し、真木に無節操な批評が加えられるとなると、ついに我慢がならなかった。彼女は、殆ど本能的な抗弁の衝動に駆られるのである。麗らかな庭の春景色に比べては、余り凄じい暫くの沈黙の後、ゆき子は、辛うじてこれだけを云った。
「おかあさまが、私を愛し、心配して下さるのは、ほんとに有難く思いますわ、ほんとに! だけれども、その気分の反動でだけ、真木を批評しては戴きたくないわ。私も何か云わずにはいられなくなるんですもの。それは、真木は偉大な人格者でもないし、素晴らしい天才でもないけれども、少くとも、自分の愛する者に対しての真心位は持っている人です」
「――お前は、そう思っているのさ」
「――夢中になっているとおっしゃるかもしれないけれども、とにかく、私は、おかあさまよりは真木がどういう人間だか知っていることだけは信じますわ」