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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
有り合わせのものの中からできるだけ地味な一そろいを選んでそれを着ると葉子はすぐ越後屋に車を走らせた。
昼すぎまで葉子は越後屋にいて注文や買い物に時を過ごした。衣服や身のまわりのものの見立てについては葉子は天才といってよかった。自分でもその才能には自信を持っていた。従って思い存分の金をふところに入れていて買い物をするくらい興の多いものは葉子に取っては他になかった。越後屋を出る時には、感興と興奮とに自分を傷めちぎった芸術家のようにへとへとに疲れきっていた。
帰りついた玄関の靴脱ぎ石の上には岡の細長い華車な半靴が脱ぎ捨てられていた。葉子は自分の部屋に行って懐中物などをしまって、湯飲みでなみなみと一杯の白湯を飲むと、すぐ二階に上がって行った。自分の新しい化粧法がどんなふうに岡の目を刺激するか、葉子は子供らしくそれを試みてみたかったのだ。彼女は不意に岡の前に現われようために裏階子からそっと登って行った。そして襖をあけるとそこに岡と愛子だけがいた。貞世は苔香園にでも行って遊んでいるのかそこには姿を見せなかった。
岡は詩集らしいものを開いて見ていた。そこにはなお二三冊の書物が散らばっていた。