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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
二三
葉子はそこから避けるように足を返してまた税関のほうに歩み近づいた。監視課の事務所の前を来たり往ったりする人数は絡繹として絶えなかったが、その中に事務長らしい姿はさらに見えなかった。葉子は絵島丸まで行って見る勇気もなく、そこを幾度もあちこちして監視補たちの目にかかるのもうるさかったので、すごすごと税関の表門を県庁のほうに引き返した。
二三
その夕方倉地がほこりにまぶれ汗にまぶれて紅葉坂をすたすたと登って帰って来るまでも葉子は旅館の閾をまたがずに桜の並み木の下などを徘徊して待っていた。さすがに十一月となると夕暮れを催した空は見る見る薄寒くなって風さえ吹き出している。一日の行楽に遊び疲れたらしい人の群れにまじってふきげんそうに顔をしかめた倉地は真向に坂の頂上を見つめながら近づいて来た。それを見やると葉子は一時に力を回復したようになって、すぐ跳り出して来るいたずら心のままに、一本の桜の木を楯に倉地をやり過ごしておいて、後ろから静かに近づいて手と手とが触れ合わんばかりに押しならんだ。倉地はさすがに不意をくってまじまじと寒さのために少し涙ぐんで見える大きな涼しい葉子の目を見やりながら、「どこからわいて出たんだ」