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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
「愛子がそんなお言葉で泣きましたって? 不思議ですわねえ。……それならそれでようござんす。……(ここで葉子は自分にも堪え切れずにさめざめと泣き出した)岡さんわたしもさびしい……さびしくって、さびしくって……」
「お察し申します」
岡は案外しんみりした言葉でそういった。
「おわかりになって?」
と葉子は泣きながら取りすがるようにした。
「わかります。……あなたは堕落した天使のような方です。御免ください。船の中で始めてお目にかかってからわたし、ちっとも心持ちが変わってはいないんです。あなたがいらっしゃるんでわたし、ようやくさびしさからのがれます」
「うそ!……あなたはもうわたしに愛想をおつかしなのよ。わたしのように堕落したものは……」
葉子は岡の手を放して、とうとうハンケチを顔にあてた。
「そういう意味でいったわけじゃないんですけれども……」
ややしばらく沈黙した後に、当惑しきったようにさびしく岡は独語ちてまた黙ってしまった。岡はどんなにさびしそうな時でもなかなか泣かなかった。それが彼をいっそうさびしく見せた。
三月末の夕方の空はなごやかだった。庭先の一重桜のこずえには南に向いたほうに白い花べんがどこからか飛んで来てくっついたようにちらほら見え出していた、その先には赤く霜枯れた杉森がゆるやかに暮れ初めて、光を含んだ青空