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あるおんな

或る女

有島 武郎

2(後編)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页

青空文庫

愛子も貞世も見違えるように美しくなった。その肉体は細胞の一つ一つまで素早く春をかぎつけ、吸収し、飽満するように見えた。愛子はその圧迫に堪えないで春の来たのを恨むようなけだるさとさびしさとを見せた。貞世は生命そのものだった。秋から冬にかけてにょきにょきと延び上がった細々したからだには、春の精のような豊麗な脂肪がしめやかにしみわたって行くのが目に見えた。葉子だけは春が来てもやせた。来るにつけてやせた。ゴム毬の弧線のような肩は骨ばった輪郭を、薄着になった着物の下からのぞかせて、潤沢な髪の毛の重みに堪えないように首筋も細々となった。やせて悒鬱になった事から生じた別種の美――そう思って葉子がたよりにしていた美もそれはだんだん冴え増さって行く種類の美ではない事を気づかねばならなくなった。その美はその行く手には夏がなかった。寒い冬のみが待ち構えていた。

歓楽ももう歓楽自身の歓楽は持たなくなった。歓楽の後には必ず病理的な苦痛が伴うようになった。ある時にはそれを思う事すらが失望だった。それでも葉子はすべての不自然な方法によって、今は振り返って見る過去にばかりながめられる歓楽の絶頂を幻影としてでも現在に描こうとした。