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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
酒で心臓の興奮しやすくなった倉地の呼吸は霰のようにせわしく葉子の顔にかかった。
「ばかが……静かに物をいえばわかる事だに……おれがお前を見捨てるか見捨てないか……静かに考えてもみろ、ばかが……恥さらしなまねをしやがって……顔を洗って出直して来い」
そういって倉地は捨てるように葉子を寝床の上にどんとほうり投げた。
葉子の力は使い尽くされて泣き続ける気力さえないようだった。そしてそのまま昏々として眠るように仰向いたまま目を閉じていた。倉地は肩で激しく息気をつきながらいたましく取り乱した葉子の姿をまんじりとながめていた。
一時間ほどの後には葉子はしかしたった今ひき起こされた乱脈騒ぎをけろりと忘れたもののように快活で無邪気になっていた。そして二人は楽しげに下宿から新橋駅に車を走らした。葉子が薄暗い婦人待合室の色のはげたモロッコ皮のディバンに腰かけて、倉地が切符を買って来るのを待ってる間、そこに居合わせた貴婦人というような四五人の人たちは、すぐ今までの話を捨ててしまって、こそこそと葉子について私語きかわすらしかった。高慢というのでもなく謙遜というのでもなく、きわめて自然に落ち着いてまっすぐに腰かけたまま、柄の長い白の琥珀のパラソルの握りに手を乗せていながら、葉子にはその貴婦人たちの中の一人がどうも見知り越しの人らしく