轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
葉子はもう何者も信用する事ができなかった。ほんとうに双鶴館の女将が来たのではないらしくもあり、番頭までが倉地とぐるになっていてしらじらしい虚言をついたようにもあった。
何事も当てにはならない。何事もうそから出た誠だ。……葉子はほんとうに生きている事がいやになった。
……そこまで来て葉子は始めて自分が家を出て来たほんとうの目的がなんであるかに気づいた。すべてにつまずいて、すべてに見限られて、すべてを見限ろうとする、苦しみぬいた一つの魂が、虚無の世界の幻の中から消えて行くのだ。そこには何の未練も執着もない。うれしかった事も、悲しかった事も、悲しんだ事も、苦しんだ事も、畢竟は水の上に浮いた泡がまたはじけて水に帰るようなものだ。倉地が、死骸になった葉子を見て嘆こうが嘆くまいが、その倉地さえ幻の影ではないか。双鶴館の女将だと思った人が、他人であったように、他人だと思ったその人が、案外双鶴館の女将であるかもしれないように、生きるという事がそれ自身幻影でなくってなんであろう。葉子は覚めきったような、眠りほうけているような意識の中でこう思った。しんしんと底も知らず澄み透った心がただ一つぎりぎりと死のほうに働いて行った。