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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
木村の事も探っておきたいから」
そういって葉子はその座をはずした。倉地は返事一つせずに杯を取り上げていた。
二階に行って見ると、古藤は例の軍服に上等兵の肩章を付けて、あぐらをかきながら貞世と何か話をしていた。葉子は今まで泣き苦しんでいたとは思えぬほど美しいきげんになっていた。簡単な挨拶を済ますと古藤は例のいうべき事から先にいい始めた。
「ごめんどうですがね、あす定期検閲な所が今度は室内の整頓なんです。ところが僕は整頓風呂敷を洗濯しておくのをすっかり忘れてしまってね。今特別に外出を伍長にそっと頼んで許してもらって、これだけ布を買って来たんですが、縁を縫ってくれる人がないんで弱って駆けつけたんです。大急ぎでやっていただけないでしょうか」
「おやすい御用ですともね。愛さん!」
大きく呼ぶと階下にいた愛子が平生に似合わず、あたふたと階子段をのぼって来た。葉子はふとまた倉地を念頭に浮かべていやな気持ちになった。しかしそのころ貞世から愛子に愛が移ったかと思われるほど葉子は愛子を大事に取り扱っていた。それは前にも書いたとおり、しいても他人に対する愛情を殺す事によって、倉地との愛がより緊く結ばれるという迷信のような心の働きから起こった事だった。