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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
四三
憤怒と嫉妬とに興奮しきった葉子は躍起となってそのあとを追おうとしたが、足はしびれたように動かなかった。ただだんだん遠ざかって行く後ろ姿に対して、熱い涙がとめどなく流れ落ちるばかりだった。
しめやかな音を立てて雨は降りつづけていた。隔離病室のある限りの窓にはかんかんと灯がともって、白いカーテンが引いてあった。陰惨な病室にそう赤々と灯のともっているのはかえってあたりを物すさまじくして見せた。
葉子は紙幣の束を拾い上げるほか、術のないのを知って、しおしおとそれを拾い上げた。貞世の入院料はなんといってもそれで仕払うよりしようがなかったから。いいようのないくやし涙がさらにわき返った。
四三
その夜おそくまで岡はほんとうに忠実やかに貞世の病床に付き添って世話をしてくれた。口少なにしとやかによく気をつけて、貞世の欲する事をあらかじめ知り抜いているような岡の看護ぶりは、通り一ぺんな看護婦の働きぶりとはまるでくらべものにならなかった。葉子は看護婦を早く寝かしてしまって、岡と二人だけで夜のふけるまで氷嚢を取りかえたり、熱を計ったりした。
高熱のために貞世の意識はだんだん不明瞭になって来ていた。