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あるおんな

或る女

有島 武郎

2(後編)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页

青空文庫

あなたお丈夫でしたの」

といってみると「えゝ」とだけすげない返事が、機械を通してであるだけにことさらすげなく響いて来た。そして今度は古藤のほうから、

「木村……木村君はどうしています。あなた会ったんですか」

とはっきり聞こえて来た。葉子はすかさず、

「はあ会いましてよ。相変わらず丈夫でいます。ありがとう。けれどもほんとうにかわいそうでしたの。義一さん……聞こえますか。明後日私東京に帰りますわ。もう叔母の所には行けませんからね、あすこには行きたくありませんから……あのね、透矢町のね、双鶴館……つがいの鶴……そう、おわかりになって?……双鶴館に行きますから……あなた来てくだされる?……でもぜひ聞いていただかなければならない事があるんですから……よくって?……そうぜひどうぞ。明々後日の朝? ありがとうきっとお待ち申していますからぜひですのよ」

葉子がそういっている間、古藤の言葉はしまいまで奥歯に物のはさまったように重かった。そしてややともすると葉子との会見を拒もうとする様子が見えた。もし葉子の銀のように澄んだ涼しい声が、古藤を選んで哀訴するらしく響かなかったら、古藤は葉子のいう事を聞いてはいなかったかもしれないと思われるほどだった。