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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
倉地は勇み立つようにしてまた土の上にしゃがみこんだ。
倉地はこうして一日働き続けた。日がかげるころになって葉子も一緒に庭に出てみた。ただ乱暴な、しょう事なしのいたずら仕事とのみ思われたものが、片づいてみるとどこからどこまで要領を得ているのを発見するのだった。葉子が気にしていた便所の屋根の前には、庭のすみにあった椎の木が移してあったりした。玄関前の両側の花壇の牡丹には、藁で器用に霜がこいさえしつらえてあった。
こんなさびしい杉森の中の家にも、時々紅葉館のほうから音曲の音がくぐもるように聞こえて来たり、苔香園から薔薇の香りが風の具合でほんのりとにおって来たりした。ここにこうして倉地と住み続ける喜ばしい期待はひと向きに葉子の心を奪ってしまった。
平凡な人妻となり、子を生み、葉子の姿を魔物か何かのように冷笑おうとする、葉子の旧友たちに対して、かつて葉子がいだいていた火のような憤りの心、腐っても死んでもあんなまねはして見せるものかと誓うように心であざけったその葉子は、洋行前の自分というものをどこかに置き忘れたように、そんな事は思いも出さないで、旧友たちの通って来た道筋にひた走りに走り込もうとしていた。