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せんじりょこうかばん
戦時旅行鞄
海野 十三
――金博士シリーズ・6――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,792 字 · 22 页
檣の上まで波浪が上るなどと、そんな馬鹿気たことがあってたまるかい」
「いや、その馬鹿気たことが現に起っているんだから、全く馬鹿気た話さ」
そんな騒ぎのうちに、船橋でも秘かなる大騒ぎが起っていた。
「どうも不思議だ。機関部は十五ノットの速力を出しているというが、実測するとこの汽船は四十五ノットも出ているんだ」
「そうだ。たしかにそれくらいは出ているかもしれない。機関部の計器が狂っているのじゃないか」
「どうもあまり不思議だから、今機関部に命じてノットを零に下げさせているんだがね」
そのうちに機関部からは、機関の運転を中止したと報告があった。
「なに、機関の運転を中止したって、冗談じゃない。今現に実測によると本船は四十ノットの快速力で走っているじゃないか」
「惰力で走っているのじゃないですか」
「そうかしらん」
といっているうちに、実測速力計の針は、またまたぐいっと右へ跳ねて、速力四十八ノットと殖えて来た。
「いやだね。エンジンが停って、速力が殖えるなんて、どうしたことだ。おれはもう運転士の免状を引き破ることに決めた」
「いや、俺は気が変になったらしい」
「わしは、もう船長を辞職だ」