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げさくしゃ

戯作者

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年4月1日春季特別号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,218 字 · 21 页

青空文庫

臍下丹田に心を落ち付け、いつ迄も無言で佇んだ。

相手の武士もかかって来ない。青眼に刀を構えたまま、微動をさえもしないのである。

八犬伝書き進む

その時武士の囁く声が馬琴の耳へ聞こえてきた。

「驚き入ったる無想の構え。合討ちになるも無駄なこと、いざ刀をお納め下され」

そういう言葉の切れた時パチリと鍔鳴りの音がした。武士は刀を納めたらしい。しかし馬琴は動かなかった。じっと刀を構えたまま不動の姿勢を崩そうともしない。返辞をしようともしなかった。声の顫えるのを恐れたからである。

と、また武士の声がした。

「拙者は武術修行の者、千葉周作成政と申す。ご姓名お聞かせ下さるまいか」

しかし馬琴は返辞をしない。無念無想を続けている。

「誰人に従いて学ばれたな? お聞かせ下さることなりますまいかな?」

武士の声はまた云った。

「拙者師匠は浅利又七郎」

馬琴は初めてこう云ったがその声は顫えていなかった。この時彼の心持は水のように澄み切っていたのである。

「ははあ、浅利殿でござったか。道理で」と武士は呟くように云った。

「今夜は拙者の負けでござる。ご免」と云う声が聞こえたかと思うと、立ち去るらしい足音がした。