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とびらのかなたへ
扉の彼方へ
岡本 かの子
「新女苑」1938(昭和13)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,155 字 · 17 页
だんだん判って来たでしょうが、あまり気にしないで呉れ給え」
私は良人が私をうち見守る眼差の中で、結婚して始めての嬌態を作って、こう云わないでは居られませんでした。
「値打ちのある目的って、どんな目的をお持ちなのよ」
すると良人は、逞ましい腕を伸ばして私を自分の胸に押しつけました。
「僕のこの頑固な胸を君に開いて貰いたいのだ」
ああ、それは実に開くに骨の折れる重たい樫の木の扉である。そしてその扉は良人の胸にばかりあるのかと思いの外、私の胸にもそれがあるのでした。一ばん困ることは、その扉を開けかけるとその隙間から、まず、結婚前のお互の想い出の辛い悲しい侏儒がちろちろと魂に忍び込むことでした。良人にとっては前の妻であろうが、私にとっては珪次の想い出なのです。今頃、珪次はおとなしく再び学校通いを始めていて呉れているだろうか――。良人は一たん私を静かに胸から離して云いました。
「二人ともこれで実はそうとう深傷を負ってるのだなあ」
私は生れて以来こんな悲壮な男らしい声を聞いたことがありません。逞ましい雄獅子が自分と妻の致命的な傷口を嘗め労わりつつ呻く、絶体絶命の呻きです。