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てがみ
手紙
久生 十蘭
「小説と読物」1949(昭和24)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,158 字 · 30 页
「濠洲へ着きました」といいました。
村上さんは、顔じゅう一杯になるほど大きな眼をあけ、長い間、私の顔をみつめ、
「ここは濠洲のどこだ」とたずねました。
「ここはクィーンスランドの北のダック湾です」といいますと、
「うれしいなー、四郎、おれを担ぎおろして、濠洲の土を踏ませてくれ」といいました。
私は右手で村上さんを抱き、ひきずるようにして砂浜へあげますと、村上さんは砂の上にあぐらをかいて、
「アア濠洲だなー、濠洲だ」といって、手で砂を掬ってはこぼし、また掬ってはこぼししていましたが、急に胸を反らせると、いま出たばかりの大きな月を眺めるようにして、何度も咳をしました。サウシテ前へかがんで血を吐きました。
それは、私が一生に見る血の全部よりまだ多いと思われるようなたいへんな血で、ポンプの口から吐きだすように、あとからあとから、いくらでも出ました。
私はなにがはじまったのかわからず、ボンヤリと立ったまま眺めていましたが、気がついて血をとめようと、手で村上さんの口をふさぎかかりますと、村上さんは私の手を両手で挾み、頂くように額へ強くおしあて、それで村上さんの手は、氷のように冷たくなってしまいました。