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てがみ
手紙
久生 十蘭
「小説と読物」1949(昭和24)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,158 字 · 30 页
といいながら、門から入って来られるようでなりません。
私はサイフォンでコッピーをこしらえ、ヴェランダの床にすわって村上さんを待っていました。夜になり、月が出て、裏のアダンの林で鸚鵡がボボボーと鳴きましても、村上さんは帰ってはこられませんでした。
マリハツ・シロウは村上さんのジョンゴス(僕)をしていた二年の間、夜は二時間、昼は炊事場の日蔭で十分ばかり眠り、村上さんに喜ばれたいために、つとめました。寝ている夢の中でも、村上さんの用をつとめ、びっくりして飛び起きることがありました。私は村上さんの忠実なジョンゴスでありました。
村上さんは、いつも黙っているひと、厳格なひとでした。インドネシアは喜ばしいときには笑い、悲しいときには泣きます。日本人は悲しいときには笑い、嬉しいときには怒ります。インドネシアは、それを理解することができません。長い間、私もそうでした。村上さんのやさしい心を知ったのは、死なれてから十日もあと、村上さんのお骨を入れた骨壺を、舟の檣のてっぺんに結びつけ、一人、月の光に照らされ、海豚と話しながら、アラフラ海を漂っているそのときでした。