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てふうきん
手風琴
小川 未明
「民政」1933(昭和8)年9月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,957 字 · 6 页
」と、頼みました。
「ああいいとも、これから里へ出るにはたいへんだ。」
その晩、二人は、炭をたくかまどのかたわらで語り明かしました。夜風が渡ると、降るように落ち葉が、小舎の屋根にかかりました。夜が明けて、男が出かけるときに、
「もしおじいさん、腹でも痛んだりしたときに、これをおあがんなさい。」と、黒い色をした薬をすこしばかりくれました。
「なにかな、これは。」
「くまのいです。このくまは大きなやつでしたが。」
「こんな高いもの、私はいらんが。」
「いくら達者でも、人間は病気にかかるものです。また来年、来年こなければ、明後年やってきます。もし、こなければ、綱でも切れて、がけから落ちて死んだと思ってください。」と、男はいいました。
「じゃ、おまえさんも達者で。」と、じいさんは、別れを告げました。
秋草の咲き乱れた高原を、だんだん遠ざかってゆく、手風琴の音がきこえました。
「変わった薬屋さんもあったものだ。」
じいさんは、働きながら、男のいったことを思い出していました。それには、真理がありました。かわいい孫が腹下しをして、わずか二日ばかりで死んだのであったが、せっかく買ってきた薬がなんのききめもなかったのが思い出されました。