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ピッチャーさつじんじけん

投手殺人事件

坂口 安吾

「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页

青空文庫

あんたの三振記録なんて、小僧クンにたちまち破られるからって、言ってやったのよ。一服クン、去年の暮ごろから、しつこく私にプロポーズしてるのよ。今日も、街で出会ったの。一服クン、京都に住んでるでしょう。でね、すぐ結婚しよう、泊りに行こうなんて云うから、ハッキリ云ってやったの。私は二三日中に、大鹿さんと結婚するんですって。一服クン、青くなって、怒ったわよ」

大鹿はなんとも不快な気持がこみあげてきたが、しかし、この先どうしたらいいのか、思えば、クラヤミがあるだけだ。胸がつぶれる悲しさである。

「なにを、ふさいでいるのよ。ほがらかに、ハッキリなさいな。私と結婚するのよ。そして、ネービーカットへ移籍するのよ。煙山クンや、ラッキーストライクの卑劣さを嘲笑ってやりましょうよ。私、あなたのために、二百万円失うぐらい、なんとも思っていないわよ」

大鹿は冷めたく目をあげて、

「あなたと結婚するんでしたら、こんなに骨身をけずる思いをして、三百万円で苦労しやしませんよ」

光子の顔色が変った。

「なんですって?」

「ボクは暁葉子さんと結婚したいのです。そのために、こんなに苦しい思いをしているのです」