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ピッチャーさつじんじけん
投手殺人事件
「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页
その一 速球投手と女優の身売り
新しい年も九日になるのに、うちつづく正月酒で頭が痛い。細巻宣伝部長が後頭部をさすりながら朝日撮影所の門を通ろうとすると、なれなれしく近づいた男が、
「ヤア、細巻さん。お待ちしていました。とうとう現れましたぜ。暁葉子が。インタビューとろうとしたら拒絶されましたよ。あとで、会わして下さい。恩にきますよ」
こう云って頭をかいてニヤニヤしたのは、専売新聞社会部記者の羅宇木介であった。
「ほんとか。暁葉子が来てるって?」
「なんで、嘘つかんならんですか」
「なんだって、君は又、暁葉子を追っかけ廻すんだ。くどすぎるぜ」
「商売ですよ。察しがついてらッしゃるくせに。会わして下さい。たのみますよ」
「ま、待ってろ。門衛君。この男を火鉢に当らせといてくれたまえ。勝手に撮影所の中を歩かせないようにな。たのむぜ」
暁葉子は年末から一ヵ月ちかく社へ顔をださないのである。暮のうち、良人の岩矢天狗が、葉子をだせと云って二三度怒鳴りこんだことがあった。天狗は横浜の興行師で、バクチ打、うるさい奴だ。葉子の衣裳まで質に入れてバクチをうつという悪党で、今まで葉子が逃げださないのが、おかしいぐらいであった。