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ピッチャーさつじんじけん

投手殺人事件

坂口 安吾

「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页

青空文庫

「さっきは、よくも、捨てゼリフを残して逃げたな。ヤイ、お光」

「なによ。天下の往来で」

「フン。どこだって、かまうもんか。キサマ、ほんとに大鹿と結婚するのか」

「フフ」

「オイ。もし、結婚するなら、キサマか、大鹿か、どっちか一方、殺してやる」

「すごいわね」

「なア、オイ、ウソだと云え」

「さア、どうだか。今のところ、ハッキリしないから。二三日うちに分るわよ。大鹿さんと結婚するか、しないかが」

「大鹿はどこに住んでる」

「私もそれが知りたいのよ」

「フン。隠すな。痛い目をみたいか」

「隠すもんですか。私も探しているのだもの。あんた、探せたら、探してよ」

「よし、探してみせる。ついてこい」

「どっちよ」

「だいたい見当がついてるんだ。大鹿が、嵐山の終点で下車するという噂があるんだ」

「あそこから、又、清滝行の電車だってあるじゃないの」

「なんでも、いゝや。意地で探してみせるから。オレが大鹿と膝ヅメ談判して、奴が手をひくと云ったら、お光はオレと結婚するな」

「さア、どうだか。大鹿さんと結婚しないったって、あんたと結婚するとは限らないわよ」

「そうは云わせぬ」

「じゃア、どう言わすの」

「とにかく、大鹿の隠れ家を突きとめてみせるから、ついてこい」