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ぬきうちししべえ
抜打ち獅子兵衛
山本 周五郎
「講談雑誌」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,930 字 · 24 页
五
「角之進、……貴公はいい人物だ、御老職はじめみんな忠義に篤い武士らしい武士だ、しかし、その忠心はお姫さまの生涯を御不幸にするかも知れないぞ、貴公らとしてはあくまでお家を再興したいだろう。しかしもう駄目だ、拙者には分っている。恐らく貴公らも心のなかではそう感じているに違いない。御老職、……もう諦めるべきです。そしてお姫さまを世にお出し申す時です」
「くそ! まだ申すか」
喚きざま柏木大六が烈しく斬ってかかった。夕闇のなかに、ぎらりぎらりと刃の閃くのが見え、地を踏む跫音と、叫び声とが入り乱れた。
しかしそれは十秒とかからなかった。
大六は脾腹を、角之進は高股を、峰打ちではあるが骨へ徹るほど打込まれて倒れた。……玄蕃は元の場所を少しも動かずに黙って見ていた。
五
――天下無敵、ぬきうち獅子兵衛。
両国広小路には今日も高札が立ち、それを取巻いて黒山のような群衆が、いま朝から三番目の勝負が行われているのを、押しあいへしあい見物していた。
その勝負がついたときである、わきたっている人垣を押分けて、昨日の鬼若様の供で来た綿貫藤兵衛がつかつかと縄張の中へ入ってくると、