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おしえとたびするおとこ
押絵と旅する男
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1929(昭和4)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,416 字 · 35 页
その扁平なものは、多分額に相違ないのだが、それの表側の方を、何か特別の意味でもあるらしく、窓ガラスに向けて立てかけてあった。一度風呂敷に包んであったものを、態々取出して、そんな風に外に向けて立てかけたものとしか考えられなかった。それに、彼が再び包む時にチラと見た所によると、額の表面に描かれた極彩色の絵が、妙に生々しく、何となく世の常ならず見えたことであった。
私は更めて、この変てこな荷物の持主を観察した。そして、持主その人が、荷物の異様さにもまして、一段と異様であったことに驚かされた。
彼は非常に古風な、我々の父親の若い時分の色あせた写真でしか見ることの出来ない様な、襟の狭い、肩のすぼけた、黒の背広服を着ていたが、併しそれが、背が高くて、足の長い彼に、妙にシックリと合って、甚だ意気にさえ見えたのである。顔は細面で、両眼が少しギラギラし過ぎていた外は、一体によく整っていて、スマートな感じであった。そして、綺麗に分けた頭髪が、豊に黒々と光っているので、一見四十前後であったが、よく注意して見ると、顔中に夥しい皺があって、一飛びに六十位にも見えぬことはなかった。