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しんどうま
振動魔
海野 十三
「新青年」博文館、1931(昭和6)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,354 字 · 34 页
さてこの上は、何とか言葉をかけて、雪子夫人をこの実験室に引き入れることができればよいのだった。それはなんの造作もないことだった。彼が唯一言、夫人にむかって、「奥さん、例の旅順大学に使わせる実験室がすっかり出来上って、今日の夕方までには、机も器械も全部とりつけが出来るんですよ」とさえ云えばよかった。あとは夫人の方で心得て、
「あら、そお。それじゃ、あたし夜分に、ちょっと、お寄りするわ。ね、いいでしょう、あなた」
と云うに違いないのだった。そして事実はすべてその筋書どおりに、とりはこばれたのだった。時計が七時をうつと、実験室の扉がコトコトと打ち鳴らされた。室内にひとりで待ちかまえていた柿丘は、その音を聞くと、ニヤリと薄気味の悪い嗤いをうかべて、やおら、椅子の上から立ちあがった。
内部から柿丘が扉を開くと、とびつくようにしてよろめきながら、雪子夫人が入ってきた。
「貴女お独り?」
と、柿丘はきいた、念のために……。
「ええ独りなのよ。どうしてさ、ああ、奥さんのことなの。奥さんなら、いまちょいとお仕事が、おあんなさるのですって」
雪子夫人は、お饒舌をしたあとで、娼婦のように、いやらしいウインクを見せたのだった。