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しんどうま

振動魔

海野 十三

「新青年」博文館、1931(昭和6)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,354 字 · 34 页

青空文庫

彼の意識は、もうかなり朦朧としてしまったが、吸入の酸素瓦斯を、もっと強く出してくれるようにということと、どんなことがあっても主治医である白石博士を呼んではならないということを、家人に要求したのだった。何故に名医白石博士を謝絶したのであるか。生命をかけてまで、排撃したのであるか。

それについて、柿丘は遂に言葉をつぎたすことなく、二日後に長逝してしまった。ここに泪なくしては眺めることの出来ないものがある。それは、二十年の春を、つい此の間迎えたばかりの呉子さんが、早や墨染の未亡人という形式に葬られて、来る日来る夜を、寂滅と長恨とに、止め度もない泪を絞らねばならなかったことだった。

身寄りのすくない呉子さんに、何くれとなく力添えをすることの出来るのは、僕一人だった。白石博士も、雪子夫人も急によそよそしくなって、極く稀にしか、呉子さんの許を訪ねて来はしなかった。僕は、亡き友人柿丘になり代って、いや柿丘のなし得たその幾層倍の忠実さをもって、呉子さんを慰めたのだった。呉子さんも、僕を亡き良人の兄弟同様の人物として、何事につけ僕を頼り、たとえば遺産相続のことまでも、すこしも秘密にすることなく、僕に相談をかけるという有様だった。