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しんどうま

振動魔

海野 十三

「新青年」博文館、1931(昭和6)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,354 字 · 34 页

青空文庫

この白石博士を、柿丘秋郎は恩人と仰いでいると、茲に誌したが、柿丘も実は博士のこの新療法によって、更生の幸福を掴んだ一人だった。そして柿丘が、もう一ヶ月遅く、博士の病院の門をくぐるか、乃至はもう一ヶ月速く博士の診断を仰いだとしたら、彼は更生の機会を遂に永遠に喪ったことだろう。それと云うのが、博士がこの新療法に確信を得たばっかりのところへ柿丘は馳けつけたことになり、いわば博士の公式な第一試術患者となったわけで、また一面において柿丘の病状は第三期に近く右肺の第一葉をすっかり蝕まれ、その下部にある第二葉の半分ばかりを結核菌に喰いあらされているところだったので、若しもう一と月、博士の門をくぐるのが遅かったとすると、流石の博士もその回春について責任がもてなかったのだった。

ここに一寸だけ、柿丘秋郎の輪廓を読者に示さねばならぬ羽目になったけれど、柿丘秋郎は彼の郷里の岡山に、親譲りの莫大な資産をもち、彼の社会的名声は、社会教育家として、はたまた宗教家として、年少ながら錚々たるものがあり、殊に青年男女間に於ては、湧きかえるような人気がある人物だった。ちょうど病気に倒れる直前には、その宗教団体の選挙があって、彼は猛然なる運動の結果、その弱年にも拘らず、非常に重要な地位に就いた。