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しんどうま

振動魔

海野 十三

「新青年」博文館、1931(昭和6)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,354 字 · 34 页

青空文庫

そのような危機を、白石右策博士は見事にすくったのだった。柿丘にしてみれば、博士に救われたのは、病気ばかりではなく、彼の社会的地位も、彼の家庭も、彼の財産も、ことごとく博士の手によって同時に救われたことになるのだった。博士のサナトリューム療院から退院するという日、柿丘は博士の足許にひれふして、潸然たる泪のうちに、しばらくは面をあげることができないほどだった。

柿丘秋郎と白石博士との両家庭が、非常に親しい交際をするようになったのは、実にこうした事情に端を発していた。

2

この二組の夫婦は、しばしば一緒になってお茶の会をしたり、その頃流行り出したばかりの麻雀を四人で打ったり、日曜日の午後などには三浦三崎の方面へドライヴしてはゴルフに興じたり、よその見る眼も睦じい四人連れだった。しかしながら、博士と雪子夫人と、柿丘と呉子さんとの関係は、いつまでもそう単純ではあり得なかった。

そのことを始めて僕が知ったのは、或る夏の終り近い一日だった。雪子夫人には、博士との間にどういうものか子種がなかった。それで多量の閑暇をもてあましたらしい夫人は、間もなく健康を恢復して更生の勢いものすごく社会の第一線にのりだして行った柿丘秋郎の関係している各種の社会事業に自らすすんで、世話役をひきうけたのだった。