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にぎったて

握った手

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第六号」1954(昭和29)年4月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,293 字 · 23 页

青空文庫

つまり、それほど、ケダモノの手に苦しんでいるのでしょうね」

婦人科学者は分りましたというようにうなずいた。そしてしばらく考えている様子であった。観察が終ったせいか、ケンビ鏡の筋金がほぐれて、ロイド眼鏡にいくらか女の情感がこもってきたようであった。水木由子は顔を和げた。そして女医サンが子供の患者にさとすようにやさしく云った。

「アナタの手はケダモノの手じゃなかったわ。とても立派な男の手だったのよ。だから私、手クビの痛いのが、とてもうれしかったわ。あくる朝、目がさめてからも、まだ痛いでしょう。うれしかったのよ。うっとりと、手の痛みを味わったのよ」

「許して下さるんですね」

「むろんですとも。もともと怒っていないのですもの。うっとりさせて下さったのですもの、感謝こそすれ、怒るはずないでしょう」

「慰めて下さって、うれしいです」

「アナタ、もっと強く生きなければダメよ。クヨクヨと思いめぐらしたって、人生はひらかれないわ。叩けよ、開かれん、というでしょう。その叩く手がケダモノの手のはずないでしょうね。叩く手は乱暴よ。人生をひらくんですもの。でもケダモノの手じゃないわ、立派な手よ。