轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

にぎったて

握った手

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第六号」1954(昭和29)年4月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,293 字 · 23 页

青空文庫

松夫はちかごろ考えすぎるようであった。大学を卒業して就職できたら綾子と結婚しようと考える。以前はそうではなかった。かりそめの遊びの気持であったが、だんだんそうではなくなって、必ず結婚しなければ、と考えるようになった。

彼が考えすぎるにはワケがあった。松夫と綾子との出会いは甚だしく俗悪で詩趣に欠けているのである。ある映画館であった。隣席の娘が愛くるしいので松夫は心が動いた。映画のラヴシーンと現実とが、一時的に高揚して、アッと思うヒマもなく隣席の娘の手を握ってしまったのである。

松夫は美しいひとの顔をマトモに見ることができないような内気で、すすんで美女に話しかけるような芸当は望んでも得られぬことであった。彼は内気を咒っていた。すすんで美女に話しかける勇気が欲しいということは彼のかねての願望で、その一ツの勇気によって自分の人生に大転換が起るはずだがと考え、内気を咒って味気ない日々に苦しんでいたのであった。

その彼が見知らぬ娘の手を握ったのは、その時彼の魂がどこかへ抜け出ていたせいだ。多少の勇気も加味されていたかも知れぬが、要するに一期の不覚と申すべきものであった。