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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
山陽線、呉線、山陰線、どれも水害を蒙り開通の見込たたず、ひろ子は東京にかえるどころか縫子と直次の調査にゆく望みさえも失った。
毎日一定の時刻になると、干しものだらけの部落のむこうを、線路沿いに徒歩連絡する旅客の群がバスケットを下げた子供まじりに通って行った。列車不通で、重吉への手紙もとだえた。大阪から配達される新聞も来なかったし、ラジオも水に漬って駄目になった。
日毎に生活のしぼりがちぢまり、不自然な敏感さが生じ、ひろ子は自分まで、過労な女ばかりの心理葛藤に絡まりそうに感じた。
沈んだこころもちで、裏に出ていたら、濡縁の下に大籠が一つ放り出してあった。濡れた反古がつまって腐りかけている。一つの封筒の上書の字が、ひろ子の目についた。それは、特徴のある大柄な重吉の筆蹟であった。石田隆吉様と、亡くなった父親宛にかかれている。二ヵ月あまり重吉からのたよりをうけとらず、こちらからの音信さえ絶たれているひろ子は、傾きかかるような親愛の思いで、丁寧に手紙をとり出して見た。原稿用紙にかかれている一通は、送金をたのんでいる文面であった。ほかの一通は、帰省をのばすことを知らしていた。