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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
「さあ、どうか奥さん、ちっとも御遠慮はいりませんから」
一間に三間ほどのその土間までは水が入って来ていなかった。直接ひろ子に向っては用心ぶかく口を利かず、目はしだけを働かしている細君に向って、つれは、道づれとしてひろ子をひき合わせ、泊ったことのあるらしい旅館の名を云って世話をたのんだ。
「何しろ、みんな、ここのところ歩きやはりましょう、六時ごろにはどこももう満員どすわ」
濡れしおたれて、きしむ靴をやっとぬぎ、もんぺをぬぎ、今晩はここに泊めて貰うことになった。支店長、支店長と云って、女は、その男の靴下を干し、ぬれたシャツを土間の竿にかけた。が、ひろ子に向っては、雨水のたれるもんぺを、そこの竿にかけろ、と云うこともしない。寧ろつれの男が、ひろ子に向って、主婦の云うべきことを云った。
それは二間だけの家であった。永年のつましさと世間ていに対する神経とが入るなり感じられる様子であった。話のはこび工合から、ひろ子はつれの男を、月掛無尽会社か何かそういう種類の会社の支店長であり、女はその部下の女集金人と判断した。工場へ出ているという二十四五の息子も帰って来た。