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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
ベンチなどは、群集と荷物の下に埋められて、ひとわたり見まわすひろ子の目にさえ入らなかった。乗りこんだ列車は構内の群集のすさまじさの割に案外すいていた。昨夜十一時すぎに三原を発車する予定だった列車が、とうとう動かず今朝までそこにいたのであった。四人一組の復員兵たちが、飯盒で炊いた飯を、はしゃぎながら食べていた。
ひろ子は、まだ濡れて重いもんぺをぬいで窓のわきの物かけ金具にかけ、ズクズクの女学生靴もぬいで、座席の上に坐った。
「大分ぬれましたね、どこまでです?」
兵士のひとりがたずねた。
「東京までかえるんですが――この汽車、動くのかしら」
「さあ、そいつあ、神様ばかりが御存じだ」
洋酒の名も知っていてダンスもするという顔立ちに無精髭の生えたその兵士が、襟元をはだけたなりで皮肉に笑った。
「何しろ、ゆうべ動いた筈のところが御覧のとおりなんですからね――やれ、やれ、人間万事しんぼうが大切さ」
ところが、思いがけず定刻の六時半に、その列車は三原駅を出た。
「出ましたよ!」
支店長は、しんからうれしそうな笑顔になって上体をのり出した。
「これでよろし。――大分運のええ方や。