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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

「石田と申します、思いがけず大変御厄介になりまして……」

「いやいや、わたしの方が、どんだけお世話になったかしれません」

眼の不自由なその人は、広島辺の、同じ会社の支店長をしているのであった。

案内の若い者につれられて、三人は白鷺城の濠について、人通りのない雨の道を、旧城下町へ入って行った。白鷺城は、遠目に見る天守閣の姿が空に浮きたって美しく、往復の汽車から眺めて通るひろ子の目にのこった。古い濠の水は青みどろに覆われていた。濠端の古い柳が、しずかに雨にもまれている。一つの橋をわたった。河に添った横通りの方に水が出ていて、女が番傘をさし、高く裾をかかげて、ザブ、ザブあちら向きに通ってゆく。一行は、水の出ていない方の通りを真直にゆき、二つばかり角を折れて、狭い通りにある一軒のしもたやの土間に入った。

土間まで入ってみれば、上り端の畳に衝立があったりして、人を泊める家らしい。通りすがりの外見では、それらしい様子がうかがわれず荒廃のあらわれたなみの家なのであった。先着した三人の若い復員兵が、濡れた皮革の匂いをさせながら、上り口いっぱいになって靴をぬぎかけている。