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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
「どちらの? 富井の? それとも石田?」
「石田さんのハンコ」
来たのは書留速達であった。石田の母から来ている。立ったまま、ひろ子は封を切った。母は型どおりの時候の挨拶をのべ、秋めきましたが、とひろ子の安否をたずねている。
読んで行って、ひろ子は、思わず一二歩体を動かした。誰かに訴えようとするように、少し口をあいて顔をもたげた。広島で重吉の弟の直次が生死不明となっているのであった。
直次は、三度目の応召で広島に入隊した。それは、七月中旬のことであった。只今となれば、いずれ内地勤務のことと存じ、という母の手紙を、ひろ子も同じかすかな安堵でよろこんで読んだ。八月四日に直次は休暇で帰って来た。そして、五日の夕刻、いそいで隊へ戻った、六日の朝、丁度朝食の時間に、広島の未曾有の爆撃があった。
営内のトラックに三日後までいるのを見たという者があるが、詳しくは何一つ分らない。絶望としか思えませんが、せめては死に場所なりと知りたくて。――
汗ばんでいたひろ子の体が、小刻みに顫えた。二番目の弟の進三はもう四年南方に出征したままである。四つと二つの男の児をもつ直次の妻の、つや子の卵形の若々しい顔と古風な眼ざしが迫って来て、ひろ子はますます息苦しくなった。