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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

そして、ひろ子が弁護士と一緒に検事に面会して、療養許可を求めたとき、その検事は笑って、

「どうせ石田君は、はじめっから命なんかすててかかっているんだろうから、今更あなたが心配されるにも当らんじゃないですか」と云った。

明治時代から巣鴨の監獄と云われていた赤煉瓦の建物は、数年前にとりはらわれ、そのあとが広い草原になっていた。監獄のころには、なかに茶畑などまであったらしく、数株の茶の木がまだ残ったりしている原っぱの中のふみつけ道を辿ってゆくと、旧敷地の四分の一ぐらいのところへ退いて拘置所のコンクリート塀が四角くそびえ立っていた。新開の歩道から草原ごしにその高塀を眺めると、塀の上から白っぽい建物の棟々が見えたりして、余り異様な感じは与えない。しかし、一歩ずつその塀の根もとへ近づけば近づくほどその高さが普通でないこと、その高塀があたりまえのものでないことがわかった。高塀には人の目の高さのところに、一つ小さな切窓があけられていた。面会願の手続きがすんで、番が来るとその切窓のわきのベルを押した。すると、重い扉がのろのろと内側から開けられる。その扉の大さは人の身丈の何倍もあったし、切窓に向って佇んで待っているとき、ひろ子の体はまるで、その高塀の根に生えている雑草と同じに低く、無力なものに感じられるのであった。