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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
十
灰色の雨雲が強い風に吹きたてられて、むら立ちながら山の峯々を南から北へ走っている。
雲脚が迅く濃くなるたびに、トタン屋根に白いしぶきを立てて沛然と豪雨が降りそそいだ。大ぶりの最中は、つい近くの山鼻さえ雨に煙った。どっちの道にも朝から人通りが絶えている。
残暑にあぶられてギラついている東京の焼跡から来たひろ子に、夏の終りのこの大雨は、むしろ快よかった。いかにも、山のすぐあっちには広い海のある場所らしく、たっぷり、惜しげない、雨のふり工合がいい心持であった。
けさ、四時すぎの汽車にのるはずであったひろ子と縫子は、一旦その時刻におきて、どうする? と相談した。電燈のついている台所の雨樋をむせぶように鳴らして、もうそのときから大降りであった。
「どうなろういの、この雨で……」
治郎をだいて茶の間にねている母が声をかけた。
「日よりみてからのことにすることでありますよ」
つや子も髪をかきあげながら出て来た。
「駅から二里も歩かんならんのに、この雨では、ほん、せんのうありますわ」
おそい汽車に、と思っているうちに、十時になり正午になり、午後になって雨は一層ひどくなった。