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そうしゅ

操守

豊島 与志雄

「改造」1929(昭和4)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,418 字 · 20 页

青空文庫

そして何のこだわりもなさそうに、ひそかに吉乃の様子を窺うでもなく、程よく席につかして、八重次に三味線を持たして、自分も低くそれにつけた。

「やっぱり、岸の柳とか、菖蒲浴衣とか。ああいった軽いものの方がいいわね。わたしもともと、吉住の方だけれど……。というと、大層出来そうだけれど……ほほほ。」

そして澄代と八重次とだけで、座をもち続けてくれた。

「こちらも、何か聴かして頂戴よ。」

そう云われても吉乃は、好意のある八重次の視線に縋って、明るく笑っただけで済した。

三味線を置いて、世間話になると、岡野もそれに加わったので、吉乃はなお気持が隙になった。

澄代は酒も少しは飲めた。

「吉乃さん、こんど、隙な時、わたしの家へも遊びに来て下さいよ。わたし、各方面からのいろいろなお客が、一番楽しみなんだから……。家では、すっかり、門戸開放主義なの。その代り、御馳走はありませんよ。栄太楼のうめぼしくらいなら……。」

吉乃ははっとした。彼女はその「うめぼし」が好きで、家でよくしゃぶっていた……。岡野に話したことがあったらしい。疑念の眼付で、岡野の方を見ると、彼は煙草をそっぽに吹かしていた。