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ぎたい
擬体
豊島 与志雄
「新潮」1952(昭和27)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,945 字 · 25 页
愛情でも情慾でもなかった。ただ泥酔したためだった。二人は会社でも、互に親しい素振は見せず、却って白々しい態度をした。だが、さすがに青木は、巻子のことが気になって、落着かない気持ちだった。引緊った細そりした顔立ちに、近眼鏡の奥から眼を光らして、何喰わぬ様子をしてる彼女のうちに、独身の中年女の図々しさを見る気がした。
それから二週間ばかりたった頃、青木は巻子と連れ立って帰りかける羽目になった。街路に出ると、今晩も飲みにいらっしゃるの、と巻子が聞いた。頷くと、わたしもついて行っていいかしら、と言った。何か話があるのかも知れないと思って、青木は彼女を連れて知り合いの居酒屋へ行った。別に話もなかったが、酒が廻って来ると、巻子は頬笑んで囁いた。
「石村さんへの面当て、あれっきりなの。」
何を言うか、と青木は思ったが、その憤りのため、却って後へは引けなくなった。
二人は喜久家へ行って、また泥酔し、泊りこんでしまった。前の時と同様、味気ない一夜だった。翌朝、巻子は言った。
「こういう保養も、たまにはいいわね。」
その冷淡な言葉に、青木は見事に仇を打たれた気がした。