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ぎたい

擬体

豊島 与志雄

「新潮」1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,945 字 · 25 页

青空文庫

」

そして突然、石村は哄笑した。青木は顔を赤らめ、そして慌てた。

「いえ、あれは、あの時だけの思い附きで、例えば、万里の長城にしても同じことです。」

「なに、万里の長城がどうしたって……。」

「延々と三千キロに近いあの大城壁です。辺境蛮族の侵入を防ぐための大工事ですが、あれだって、淮河の治水工事と……。」

青木は言葉につまった。

「そうだ、日本にも一種の万里の長城が必要なんだ。たとえ徐々にしても、国防の背骨となるべき軍備が必要だ。ところが、その再軍備の方法について、諸説まちまちで、一向に纒っていない。第一、旧陸軍方面と旧海軍方面との、意見の喰い違いが甚しいし、そのほか各方面で勝手なことを主張しているんだ。国論の統一、万里の長城を築くことが、目下の急務さ。自由主義とか、平和主義とかは、問題にならん。そんな隙間から、敵に乗ぜらるることになるんだ。」

青木はすっかり腐ってしまった。なんだって今、万里の長城なんか持出したのかと後悔しても、もう追っつかなかった。

「すべて万里の長城のためさ。先程言ったこと、やってくれるね。喜久家の費用は僕が引受けるから、いいかね。」