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ぎたい

擬体

豊島 与志雄

「新潮」1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,945 字 · 25 页

青空文庫

「お願いしたいことが、二つあります」

「ああ。遠慮なく言ってくれ。」

「あの、今西巻子は、共産党員でもシンパでもありません。ましてスパイではありません。このこと、了解して頂けましょうか。」

「君はそう信ずるかね。」

「ええ、信じます。」

「それでは、僕も君の言葉を信ずるとしよう。ところで、君はあの女を愛してるのかね。」

「そんなことはありません。酒の上の過ちです。私には妻があります。」

「だが、あの女はどうも、君の側の陣営の者で、僕の側の陣営の者ではなさそうだね。」

「それは、私にはむしろ逆ではないかと思われますが……。」

石村は首をひねった。その時、青木ははっきり気附いた。今西巻子に事よせて、二人ははっきり絶縁したのだった。気持ちに何の後腐れもなくさっぱりとした。

「最後のお願いですが、お約束通りの退職金を、今日頂けますまいか。」

「ばかに気が早いね。惜別の宴でも、一夕、社員たちと一緒に設けたいんだが、どうかね。」

「そのようなこと、気が進みません。」

「いやにはっきりしてるじゃないか。」

石村は仕事机の方へ行って、何か帳簿を調べ、それから小島を呼んで、丸田の方へ紙片を持たせてやった。