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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

と云う札が目を惹くように立て掛けてあるきり、中はしーんとしていた。石子刑事は暫く考えていたが、思い切って静かに階段を上った。

上は広い洋風の待合室になっていた。中央の卓子の上には厚い表紙の金縁の写真帳がいくつも置かれていた。石子がどうしようかと窓際の長椅子の前に佇んでいると、次の間から一人の書生が現われた。

「いらっしゃいまし」

「今日は、ちょっと松下さんにお目にかゝりたいのですが」

石子は丁寧に云った。

「松下さんは居られませんですが」

書生は吃驚したように云った。

「どちらへ行かれましたか」

「松下さんは滅多にこっちへ来ないのですよ」

書生は怪訝そうな表情で答えた。

「こちらに居られると云う事を聞いて来たのですが」

「はあ、居る事にはなっていますが」

書生は困ったように、

「鳥渡お待ち下さい」

そう云って彼は引込んだが、引違いにこの家の主人らしい四十恰好の風采の好い男が出て来た。

「いらっしゃいまし。まあ、お掛け下さいまし」

彼は愛想よく云った。

「有難うございます」

石子は軽く頭を下げて答えた。

「松下さんと云うのは一体何をしている人ですか」

主人は意外な質問を発した。