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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
根岸刑事はふだんの冷然たる態度に帰って云った。
「今の場合のように非常に濃厚な嫌疑のある男の逃走を援助している男をだね、取押えて調べる道がないとすると、殆ど犯罪の検挙は出来ないじゃないか。時に誤って良民を苦しめる事があるとしても、その人はだね、丁度そんな嫌疑のかゝる状態にいたのが云わば不運で、往来で穴の中へ陥ちたり、乗ってる電車が衝突したりするのと同じ災難じゃないか。こっちは決して悪気でやっているのじゃないからね」
「そんな議論は然し世間には通用しないさ」
石子は苦笑いをした。
「つまりこうなんだ」
石子刑事は続けた。
「災難と云っても、穴に陥ちたり、電車で怪我したりしたのは夫々賠償の道があるだろう。我々の方へ引懸かったのはどうせ犯罪の嫌疑者だから、扱い方もそう生優くしていられないさ。さんざんまあ侮辱的な扱いを受けて揚句損の仕放しじゃ、辛い訳だね」
「賠償する事にしたって好いさ。どうせそうザラにある訳じゃないから。新聞はそんな方ばかり書くから矢鱈に多いようだが、そんなものじゃないからね」
「所がそうなると僕達は直ぐ成績に影響して来るからビク/\もので、碌な検挙は出来ないぜ」