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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

貞と云う女は既に三年になるのに何の便りもないのは既に死んでいるものと認めて好いでしょうし、その井戸から上ったと云う女も今だに身許不明なのですから、同一人ではないかと云う事も考えられます。それに井戸のある場所が大崎ですし、もし支倉がその女を井戸へ投げ込んだのではないかと疑えばですね、井戸のある所が支倉の近所で、誘き出して投げ込むには屈竟な所ですから、どうもその娘でないかと思うのです」

「成程」

司法主任は大きくうなずいた。

「所がですね、年齢の点が一致しないのです。当時の警察医の報告では二十二、三歳と云う事になっているのです。実際は十五か十六の訳なんですが」

「ふーん」

主任は考え込んだ。

「年齢が違うにもかゝわらず、私が尚そうではないかと主張するのは、こう云う事実があるのです。私は高輪署へ支倉の放火事件の事を調べに行って偶然にそう云う身許不明の溺死体があった事を聞き込んだのですが、妙な事には、私の為に自ら進んで諜者になって例の浅田と云う写真師の所へ住み込んだ岸本と云う青年が同じような事を聞き出したのです」

「浅田の宅で聞き出したのかね」

「そうなんです。浅田の家内のお篠とか云うのが、池田ヶ原の井戸から問題の女の死体が出た時に見に行ったと云うのです」